日本ゲノム編集学会

メルマガ4号(2017年11月13日配信)

「”倫理および規制に関する委員会”の活動紹介」堀田 秋津先生

「”倫理および規制に関する委員会”の活動紹介」

一般社団法人日本ゲノム編集学会 倫理および規制に関する委員会 委員長
京都大学 iPS細胞研究所
堀田 秋津

秋が徐々に深まり木々が色付き始めた折、皆様は如何お過ごしでしょうか?
今回のメールマガジン では、”倫理および規制に関する委員会”の活動についてご紹介させて頂きたい と思います。

倫理および規制に関する委員会(略して倫理規制委員会)では、その名の通りゲノム編集技術を利用する際の行為規範、および社会受容のためのルールのあり方について情報収集・議論・提言を行う委員会です。どんなに素晴らしい技術でも、社会に受け入れてもらえなければ意味がありませんので、研究と社会と繋ぐという意味でも非常に重要な役割を担った委員会であると言えるでしょう。委員会のメンバーも動物、植物、倫理、医療など多岐の専門家が集まっており、多様な価値観を持つ社会との関わり方について、多方面から議論することを目指しています。その際、技術を開発する側・使う側・使われた側・受け入れる側などそれぞれの立場に立って、皆様と一緒に広く議論することが重要だと考えています。

さて、今回は最初の寄稿ということで、「ゲノム編集+倫理」と聞いて多くの方が真っ先に思い浮かべるであろう、ヒト受精卵や生殖細胞でのゲノム編集の是非についての議論の一部と私の個人的な意見をご紹介したいと思います。

まず研究の目的として「基礎研究」と「医療(治療・予防・増強・不妊治療を含む)研究」に大別できます。前者はヒトの誕生を前提とせず、後者はヒトの誕生を前提としている、とも言い換えられるかと思います。後者に関しては、現時点では実施すべきでないというのが世界的な多数意見であり、国内でも日本遺伝子細胞治療学会を中心に、下記の共同提言が発表されており、日本ゲノム編集学会としてもこれに賛同する旨を公表しています。

日本遺伝子細胞治療学会、日本人類遺伝学会、日本産科婦人科学会、日本生殖医学会
「人のゲノム編集に関する関連4学会の提言」
http://jsgt.jp/INFORMATION/statement.htm

では、基礎研究目的でヒト受精卵を使用する場合、どのような制度または規制の下で行われるべきでしょうか?これについても、日本学術会議や内閣府生命倫理専門調査会など様々な場所で議論が進んでおり、一定の規制を設けるべきであるという意見でまとまりつつあるように見えますが、では具体的にどのような制度・規制(指針?法律?どこが審査?)となるかは、現時点ではまだ不透明です。

日本学術会議 提言「我が国の医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t251-1.pdf

内閣府 生命倫理専門調査会 議事録
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/life/lmain.html

一方で、中国や米国、英国では、基礎研究目的でヒト受精卵でのゲノム編集を行った研究論文が徐々に発表されてきています。

例えば、今年の8月のNature論文は、アメリカ・韓国・中国の合同チームにより、肥大型心筋症の原因となるMYBPC3の顕性(優性)変異の修復を研究用に新規受精作成したヒト受精卵で行っています。

https://www.nature.com/nature/journal/v548/n7668/full/nature23305.html
Correction of a pathogenic gene mutation in human embryos
Nature. 2017 Aug 24;548(7668):413-419.

相同染色体を鋳型として相同組換えが高効率に起こっていたというのも興味深いですが、本当にそこまで高効率で起こりえるのか、懐疑的な意見も出ているようです。
https://www.biorxiv.org/content/early/2017/08/28/181255
Inter-homologue repair in fertilized human eggs?

また、9月にはもっと基礎的な研究として、初期発生および多能性維持誘導に重要なOCT3/4の遺伝子破壊をヒト受精卵 (不妊治療の余剰胚)で行った事がイギリスのグループによって再びNatureに報告されました。

https://www.nature.com/nature/journal/v550/n7674/full/nature24033.html
Genome editing reveals a role for OCT4 in human embryogenesis.
Nature. 2017 Sep 20. doi: 10.1038/nature24033.

日本において現段階では、上記のような研究を実施しようとした場合のハードルは高いと推測します。倫理観や規制に関しては国ごとに考え方が異なり、では日本ではどのような対応をするのかを、我々は真剣に考える必要があります。また逆に、どの様な目的の基礎研究であれば、日本国内で実施すべきでしょうか?上述のNatureに論文でみられる遺伝子変異の修復や、遺伝子機能の解析でしょうか、あるいは他の目的でしょうか?私自身の意見として、日本は不妊治療大国とも呼ばれ多くの受精卵が不妊治療目的で作成されている現状を鑑みると、破棄される予定の余剰受精卵については、基礎研究に使用することで人類の叡智に還元する事も大切ではと考えます。

国民の理解を得るためにも一定の規制や審査は必要だと思いますが、日本のゲノム編集研究をガラパゴス化しないためにも、時代の流れに沿って柔軟に運用できる規制であることが重要かと思います。

日本ゲノム編集学会はゲノム編集技術の深化により医学や生物学に貢献できるよう、ヒト受精卵・生殖細胞だけに限らず、農林水産への応用やカルタヘナ法との兼ね合いなども含め、適切な倫理指針および規制のあり方について、年会等を通じて広く議論を行いたいと考えております。倫理・規制関係で御相談や情報共有等ありましたら、委員会までお気軽にご連絡頂ければ幸いです。

倫理および規制に関する委員会 <rinri-ml@jsgedit.jp>

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ゲノム編集に関するテレビ番組放映のお知らせ

11月12日(日)に、ゲノム編集を扱った以下の2つのテレビ番組が放映されました。
どちらも一般向けの内容となっており、特にNHK Eテレの番組には、今号のメールマガジンにご寄稿いただいた京都大学の堀田秋津先生がご出演されました。今後、再放送が決まりましたら、情報をメールマガジンにて配信させていただきます。

NHK-BS1 BS1スペシャル
『“ゲノム編集”食物 ~密着 食の未来の最前線~』
http://www4.nhk.or.jp/bs1sp/x/2017-11-12/11/2155/2393150/

【再放送予定】11月18日(土)午後0時30分~午後1時00分
NHK Eテレ サイエンスZERO
『“人類の夢の技術” 病の克服!iPS細胞 ゲノム編集』
http://www4.nhk.or.jp/zero/x/2017-11-18/31/6470/2136655/

 

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