日本ゲノム編集学会では、令和5年度に学生会員に対する国際学会発表支援制度を創設しました。令和6年度からはより格式を上げた「国際発表奨励賞(JSGE Talk Abroad Encouragement Award)」として継続することになりました。
研究は日々世界中で行われており、日本国内で強い分野もあれば、海外で強い分野もあります。国際学会には世界中の研究者が集まり、国内では聞けないような最新の話題に触れることができます。大変刺激的な場であり、新しい着想を得ることも多々あります。また、ポスドクや大学院生といった世代の近い研究者と交流することで、海外の研究環境やキャリア形成がどうなっているのか、生の情報を得ることができ、進路の参考になることもあります。
間違いなく有意義な経験ができる海外での学会参加ですが、渡航および参加費がネックとなり参加を断念する状況があるかもしれません。日本ゲノム編集学会では、そのような本学会の学生会員の海外渡航を後押しするため、本奨励賞を設けています。
令和6年度の詳細は募集要項(下記)を見ていただき、該当する3つのゲノム編集関連国際会議での発表を考えている場合は、ぜひ本奨励賞に応募してください。
・申請書(Word)
「要旨」は発表する国際学会に提出するもの(英語)をご記載ください。
永友大暉
(京都大学大学院医学研究科医学専攻)
この度は国際発表奨励賞にご採択いただき、誠にありがとうございました。私はこれまでに国内で開催された国際学会に参加したことはありましたが、海外で国際学会への参加は今回が初めてでした。FGE2024ではポスター発表を実施しました。また、今回の渡航を最大限生かすために、FGE2024の翌週に、11/18-22の計5日間にわたって中国で開催された「Cold Spring Harbor Asia Conference (CSHA)」に参加し、ポスター発表および口頭発表を実施しました。そして非常にありがたいことに、FGE2024のポスター発表については多くの称賛の声をいただき、ポスター賞に選出していただきました。私が研究指導を受けている研究室(京都大学農学研究科・佐久間グループ)からは2年連続の受賞となり、大変光栄に思うと同時に、今後の研究活動のモチベーションにも繋がりました。本制度による支援は FGE2024に対するものですが、続けて参加した CSHAについても併せて報告いたします。
FGE2024とCSHAはどちらも毎日朝早くから夜遅くまでたくさんのOral SessionやPoster Sessionで埋め尽くされており、内容についてはゲノム編集特化の学会ということもあり、DNA修復経路に関するトピックや、CRISPR-Cas9以外のツールの開発とエンジニアリング、医学応用等、ゲノム編集にまつわる多種多様な発表がなされ、海外の研究スピードとデータ量に圧倒されました。また、Patrick Hsuの発表では、Bridge RNAによるゲノム編集やAIを用いたEvoシステムについて紹介があり、今後のゲノム編集の分野ではインテグラーゼ系を用いた長鎖配列の大規模ノックインや、機械学習・AIによる高機能型の人工ヌクレアーゼまたはエフェクタータンパク質(転写活性化因子や脱アミノ化酵素等)の生成といった研究が飛躍的に進歩する予感がしました。
正直に申し上げますと、私は海外学会はもちろん海外への渡航自体、今回が初めてで、英語についてはかなり苦手意識をもっていました。英語でのリスニングとスピーキングに自信がない状況下でCSHAの口頭発表に選出された際には、うまく発表をやり遂げることができるか不安でした。しかしながら、英語が苦手ながらも何度も発表練習をして、実際に現地で2回のポスター発表と口頭発表を行った結果、多くの研究者の方々からご質問・ご指摘をいただき、有意義な議論ができました。それに加えて、興味をもっていただいた方々から発表後の夕食等でお声掛けしていただき、「Great Job!」と称賛していただけて、私の研究が海外の方々にも認められたことが非常に嬉しかったのを覚えています。夕食会では、海外の研究者と仲良くなり、海外の文化や研究体制を教えていただき、日本と海外の違いを認識する大変良い機会になりました。初の海外渡航でシンガポールと中国の二ヵ国へ渡航したのは大変ではありましたが、充実した日々を過ごせました。改めて、このような貴重な機会をいただき、誠に感謝申し上げます。
最後に、今後国際学会への参加を計画しており、国際発表奨励賞への応募を考えている方へのメッセージです。英語での発表はハードルが高いように感じるかとは思いますが、英語での発表は一度経験してみなければ勝手が分からないと思います。その点、国際発表奨励賞はゲノム編集に特化した学会ばかりであるため、発表内容に興味関心をもってくれる方が多いように感じました。英語が苦手で発表に不安を感じている方にとっても馴染みがある研究分野で発表できるため、ハードルは比較的低いように思いました。是非とも国際学会での発表や交流を深めるきっかけとして国際発表奨励賞を利用する方が増えてくれることを願います。
三鴨晃矢
(東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻)
この度は、国際発表奨励賞に採択頂きありがとうございました。
私はこれまでに海外への渡航経験が一切なく、日々の中で自身の英語力の低さを痛感することが何度もありました。また、学会への出席、学内でのシンポジウム等を通じて海外の研究者の存在を間近に感じる中で、海外へ目を向けるべきであると思うことが増えてきていました。そんな中で、今回ありがたいことにCSHL meeting 参加の機会を頂き、①英語での交流を数多く経験すること、②海外の最先端、トレンドを知ること、この2つを大きな目標に掲げて参加してきました。報告を以下に記させて頂きます。
CSHL meetingは4日間にわたって行われ、7つのオーラルセッションと2つのポスターセッションから構成されていました。オーラルセッションは常に会場が人で満杯になっており、海外の方々の研究に対する意欲の高さを感じました。内容も独創的なものが多く、特に自分がテーマとしているCRISPRに関連するセッションでは、Chase L Beiselが発表していたDarTを介したgap editingや、Rafael Pinilla-RedondoによるTypeⅣ-A3のAdaptationをはじめとした機能に関する発表など、殊更興味深く聞くことができました。中には、自分がこれまで頻繁に読んできた論文の筆頭著者の方や、その共同研究者の方の発表もあり、特にJoana Ferreira da SilvaによるClick Editingに関する発表では、様々なデータを見せて頂くこともできました。各セッションを通して驚いた点が、トレンドの移り変わりの速さです。昨年に関しては准教授の先生から、発表された内容やPrime Editingの発表が多かったことなどを共有して頂いていました。一方で今年の発表はCASTやIntegraseを用いた大規模改変に関する発表が多く、短期間で変化する研究の最先端に衝撃を受けました。また、各発表後の質疑応答も日本に比べると非常に活発で、毎回多くの挙手があり、たくさんの議論が交わされていました。海外の研究者の熱意と積極性に感心するとともに、自分自身の議論に対する姿勢を見直すきっかけにもなりました。
ポスターセッションは2日間で各3時間ずつ用意されていました。長時間のセッションでしたが、多くの方に聞いていただき、拙い英語ながら多くの感想やコメントを頂くことが出来ました。また議論の中で、「関連しそうなポスターが向こうにあったから行ってみなよ」と親切におすすめしていただくこともありました。セッションの後半には自分も周りのポスターを見て回り、Type I CRISPRでの大規模欠失のスクリーニングをされていた方や、核酸との親和性を基にタンパク質の改変を行っていた方などを中心にたくさんの議論をさせて頂き、知識やアイデアを吸収することが出来ました。本当にあっという間の3時間で、とても有意義で楽しい時間を過ごすことが出来ました。
セッションの合間の食事の時間にも海外の研究者の方から声をかけて頂き、一緒に食事をとることもありました。会話の中で、将来の描き方や、アメリカやカナダでのラボの形態、研究費のことなど、普段聞けない話を聞くことが出来ました。
貴重な経験をさせて頂き、本当にありがとうございました。
<最後に、今後海外の学会参加を考える方へ>
今回の学会参加を通じてたくさんの海外の研究者、企業の方とお話しさせて頂き、自分の中での海外のイメージがガラリと変わりました。食事や休憩の時間には、様々なバックグラウンドを持つ人たちが垣根なく談笑しており、自分のことも暖かく受け入れてくれました。学会の終わるころには、また海外の国際学会に参加したいと思えるようになりました。来年以降に国際学会参加を検討していて、もしこの制度が継続されていたらぜひ利用してほしいです。
宇吹俊一郎
(広島大学大学院統合生命科学研究科数理生命科学プログラム)
まず、今回の国際学会発表支援制度に応募した動機から述べます。実は私自身、英語が得意ではない上に、海外に一度も行ったことがなかったので、国際学会への参加に対してとても不安を感じていました。それでも、この先研究を続けていく上で避けては通れないという気持ちと、世界トップランナーの研究がどのようなものか見てみたいという意欲から応募させて頂きました。そして有り難いことに日本ゲノム編集学会より支援金を賜り、インドで開催されたFrontiers in Genome Engineering 2023に参加しました。以下、その内容を報告いたします。
Invited Speakerらの発表は、これまで見たことがないくらい独創的かつ、CRISPR技術の拡張と応用の広がりを感じさせるものでした。未公開のデータも多分に見せて頂き、多くのインスピレーションを得ることができました。同時に、将来的にこの分野で彼らと競い合わなければならないという意識を強く持ちました。博士課程前期二年の段階でこの意識を持てたのはとても大きなことだと思います。そして、ゲノム編集の分野は新しい段階に進んでおり、幅広い応用が行われていることが実感できました。
続いてポスターセッションについてです。インド英語はヒングリッシュと呼ばれるほど発音が特徴的で、人によっては全く聞き取れないこともありました。しかし、英会話が目的ではなく、研究内容に関する意見交換が主であると考え、自分の意見を最大限伝える努力をしました。どのポスターも、日本の学会参加では見られなかった独創的な内容でした。特に医療応用に関するものが多く、日本との研究内容の需要の違いを感じました。また、自分の発表では幸いにも多くの方に称賛の言葉を頂き、ポスター賞も受賞することができました。さらに、最終日にはクルージングがあり、多くの参加者と研究環境やその内容、将来などについて楽しくお話ししました。連絡先も交換し、今でも時々連絡を交わしています。
その後、本支援金では学会参加の他に海外ラボの訪問等も可能でしたので、 FGEのオーガナイザーの一人であるIGIBのDebojyoti Chakraborty先生や、インド観光を通じて現地の方々にお会いしました。Chakraborty先生には、ラボの設備や学生の進路、これからの研究やゲノム編集という分野がどういう方向に向かっていくのか等についてお話させて頂きました。そして、日本ではなく海外で研究することの意義や目的を考えるきっかけとなり、将来自分のなりたい研究者像をより具体的にイメージすることができました。また、現地のインドの方はとても親切で、渡航前と比べてインドの印象がガラリと変わりました。インド文化やインドから見た日本等について色々と教わりましたが、やはり貧富の差は激しく、特にニューデリー駅で物乞いする子供に会った時には衝撃を受けました。世界には解決しなければならない問題が山積みになっていることを肌で実感し、自分の研究を将来的にそのような問題に役立てようと強く思いました。
最後に、もし英語が苦手で迷っているという方もぜひ海外で開催される国際学会に参加してみてほしいと感じました。参加するだけでも非常に多くのものを得られると思います。また、この分なら完全自費でもお金を貯めてまた国際学会に参加したいと思えるほど、実に有意義な時間を過ごせました。これらの新しい価値観を得られたのも、日本ゲノム編集学会の皆様のお陰でありますので感謝の意をここに綴り、締めさせて頂きます。
山本翔吾
(大阪大学基礎工学研究科物質創成専攻機能物質化学領域)
初めに、国際学会発表支援制度という大変貴重な機会を与えてくださりましたこと感謝申し上げます。ありがとうございました。
今回、CSHL meetingに参加するにあたって主に二つの目標を掲げていました。一つ目は海外の研究者と積極的にコミュニケーションを行うことです。このような目標を掲げた理由は、第8回日本ゲノム編集学会でポスター発表をした際、海外の研究者の方からいただいた質問に全く答えることができなかったからです。自分の研究テーマに興味を持っていただき、さらに質問までいただけたのにも関わらず、私の英語表現力が拙かったことから、議論が全く進まず、質問者の疑問も解決できずに終わってしまいました。研究者を目指す私にとってこの経験は大変悔しいものであると同時に英語でのディベート力を鍛える必要があると感じました。そこで、CSHL meetingでのposter sessionに向けて自分の研究内容を可能な限り英語でまとめ、質問を想定することで出来る限りの準備を行いました。その結果、多くの研究者の方から興味を持っていただけるセッションを行うことができ、さらに積極的な意見交換から「この技術を私の実験でもぜひ使ってみたい」と多く言っていただけました。この経験は私にとって非常に刺激的であり、準備してきたことが発揮できたことによる満足感と自分の足りない能力を理解させられました。
二つ目の目標はゲノム編集技術の最前線を学ぶことでした。CSHL meetingはゲノム編集分野の中でも大きな国際学会であり著名な研究者が多く発表することやposter sessionでも新規性の高い研究テーマがたくさんあり、自分の研究に活かせる技術やアイデアを吸収することが出来ました。また、数多くのハイレベルな発表から現在のゲノム編集というフィールドを今までには経験したことがない解像度で俯瞰的に捉えることができ、これからの研究計画を見直す大変良いきっかけとなりました。
最後に、学会期間の間に多くの外国人研究者の方々とふれあい言語、文化、バックグラウンドの違いを体感しました。英語が不自由な私に対しても大変温かく接してもらい、「今後はどんなキャリアを考えているんだい」、「君の研究は今後どのように展開していくんだ」など自分自身や自分の取り組む研究に興味を持っていただけて、日々の研究生活が一つ形として認められたような感覚になりました。今後、この国際学会支援制度が継続されるか私にはわかりかねますが、もしチャンスがあればチャレンジしてここでしか得られない貴重な体験をぜひ体感してもらいたいです。