日本ゲノム編集学会

国際発表奨励賞(JSGE Talk Abroad Encouragement Award)

日本ゲノム編集学会学生会員に対する国際学会発表支援(令和7年度)

 日本ゲノム編集学会では、令和5年度に学生会員に対する国際学会発表支援制度を創設しました。令和6年度からはより格式を上げた「国際発表奨励賞(JSGE Talk Abroad Encouragement Award)」として継続しています。

 研究は日々世界中で行われており、日本国内で強い分野もあれば、海外で強い分野もあります。国際学会には世界中の研究者が集まり、国内では聞けないような最新の話題に触れることができます。大変刺激的な場であり、新しい着想を得ることも多々あります。また、ポスドクや大学院生といった世代の近い研究者と交流することで、海外の研究環境やキャリア形成がどうなっているのか、生の情報を得ることができ、進路の参考になることもあります。

 間違いなく有意義な経験ができる海外での学会参加ですが、渡航および参加費がネックとなり参加を断念する状況があるかもしれません。日本ゲノム編集学会では、そのような本学会の学生会員の海外渡航を後押しするため、本奨励賞を設けています。

 令和7年度の詳細は募集要項(下記)を見ていただき、該当する3つのゲノム編集関連国際会議での発表を考えている場合は、ぜひ本奨励賞に応募してください。

募集要項

募集要項(PDF)

応募時に提出する書類

申請書(Word)
「要旨」は発表する国際学会に提出するもの(英語)をご記載ください。

採択され渡航後に提出する書類

報告書兼振込口座登録書(Word)

 

国際学会発表支援制度 参加報告

Frontiers in Genome Engineering 2025

後藤空吾
(東京科学大学生命理工学院)

 この度は、国際発表奨励賞に採択いただき、誠にありがとうございました。今回は、2025年11月に中国で開催された IGDB Frontiers in Genome Engineering 2025 に参加いたしましたので、その内容について報告いたします。
 本会議は、中国国内外から多くの研究者が参加しており、参加者の約8割は中国の研究者でした。全体としては、小型Cas12の真核生物への応用、塩基編集技術の高活性化や精密化、Prime editorやインテグラーゼを用いた大規模ゲノム改変技術などが注目を集めていました。特に印象的だったのは、発表データの膨大さです。多くの発表では既報のイントロダクションに続き、未発表データを大量に提示しており、各ツールを十数種類の標的で比較するなど、圧倒的なスケールで技術開発が進められていることを実感しました。また、学生によるShort TalkでもNatureやCell系列誌への投稿内容やpreprint段階の研究が多く、同世代研究者のレベルの高さに衝撃を受けました。
 私自身にとっては初めての国外発表であり、英語でのディスカッションも初めての経験でした。拙い英語ではありましたが、相手が熱心に理解しようとしてくださったおかげで、有意義な意見交換を行うことができました。特に、植物分野でCRISPRaの開発を進めている研究者とのディスカッションは印象的で、国内では同分野の研究者が限られるため、貴重なつながりを得ることができました。今回の発表では、植物におけるType I CRISPR-Casを用いたCRISPRaツール開発を主題として紹介しました。議論の中では、私のデータがなぜdCas9に比べて高い活性を示すのかについて関心を持っていただき、活発な意見交換が行われました。一方で、海外の研究者(特に中国)は常に既存ツールとの比較データを重視しており、自身の研究にもその視点を取り入れる必要性を強く感じました。
 また、Welcome dinnerでは、途中から次々と他の卓の学生や先生方があいさつ回りを行い、さまざまな研究者同士で積極的に交流・コネクションを築いている様子が印象的でした。国内学会の懇親会でも交流はありますが、それ以上に活発でオープンな雰囲気を感じました。研究以外の場においても、社交的な姿勢が重要であることを改めて学びました。さらに、夕食以外の時間でも、数十分のCoffee breakの間に活発なディスカッションが行われており、会場全体が常に熱気に包まれていました。そうした活気に圧倒される中、たまたま隣に座っていたCaixia Labメンバーの方と議論を通じて意気投合し、メンバーの方々と夕食をご一緒する機会をいただきました。技術開発分野における研究の厳しさやスピード感、膨大なデータ生成の必要性など、第一線の研究環境を直接知る貴重な体験となりました。また、今後のキャリアパスや中国における研究体制など、普段は聞くことができない貴重な話を伺うこともできました。
 私は英語での議論に不安を抱いていましたが、実際に参加してみると相互理解の意欲があれば十分に意思疎通が可能であると感じました。修士課程2年のこの時期に、同世代の海外研究者と研究の進め方や方向性について議論できたことは、今後博士課程へ進む上で大きな刺激となりました。今回の経験を糧に、世界の研究者と渡り合えるよう一層努力していきたいと考えています。

 
杉山 健
(京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻)

 この度は国際発表奨励賞に採択くださりありがとうございました。今回は中国の海南島で開催されたIGDB FRONTIERS IN GENOME ENGINEERING 2025(以下FGE)に参加いたしました。
 私はこのFGEにおきまして、大きく3つの目標を設定しておりました。①最新の研究動向を把握し、国際的な競争力を向上させること、②自身の研究に対する多角的な批判を受け、今後の研究の方向性を明確化すること、そして③海外の研究者とコミュニケーションをとり、研究だけでなくキャリアについての視野を広げること、です。これらについてどのような学びを得たのか共有させていただきます。
①FGEはゲノム編集学会の年会と同じように、ゲノム編集の技術開発・治療・そして植物への応用といったセッションで構成されていました。特に熱量を感じたのは技術開発のセッションで、ある編集一つとってもそのアプローチが多数あるのが常になりつつあると感じました。例えばBase editingで1塩基置換を起こしたい場合、DNAの認識はTALEのようなタンパク質ベースの仕組みにするのか、Cas9のようにRNAベースの仕組みにするのか、また編集では効率や特異性などにおいて、どのような特徴を持つ酵素を用いるか・・・などです。当該分野では今後、似た技術と比較されることを前提として研究を行っていく必要があると実感するとともに、ゲノム編集技術を利用する場合も適切なアプローチを選択する必要があると感じました。
②ポスターセッションは1日目と2日目の最後に開催され、私は初日に発表を行いました。2024年の日本ゲノム編集学会第9回大会のポスター発表で海外の研究者の方がいらしたときは、自身の英語力の低さのせいで意思疎通がうまくいかなかったのですが、入念な準備のおかげで今回のFGEでは比較的スムーズに議論ができました。このように英語力や発表力についての自信がついた一方で、研究のスピード感やデータ量についてはまだ足りていないと感じました。FGEで発表されていた研究の多くは、異なるチームの成果であっても最新の手法や技術をスピーディーに取り入れながら、大量のデータを基に新たな知見を生み出しており、これからの研究のやる気につながりました。
③休憩時間や食事中に学生だけでなく先生方とコミュニケーションをとる機会も多く、様々なバックグラウンドをもつ海外の知り合いが複数できました。彼らとは異なる国・ラボにおける研究生活について楽しく話すことができ、今後のキャリアを考えるうえで大変参考になりました。さらに連絡先を交換して文化の違いや近況を話せる友人ができたことは、私にとって貴重な経験となりました。
 国際学会に参加することは、研究の発展やキャリアの形成だけでなく、自身が成長する機会としても非常に重要だと思います。実際に私はFGEに参加して発表を行うことで、当初設定した目標を十分達成できたと自負しています。国際学会に興味がある方はぜひ当制度の利用を検討してみてください。

 
馬 小淇
(大阪大学基礎工学研究科)

 この度、国際発表奨励賞にご採択いただき、誠にありがとうございました。
 Frontiers in Genome Engineering – IGDB 2025(三亜)に参加し、ポスター発表および Flash Talk の機会をいただきました。本会議では、ゲノム編集技術の基礎から臨床応用に至るまでの幅広い研究成果が紹介され、Prime Editing・Base Editing を用いた大規模欠失および長鎖配列の knock-in、CRISPR 技術を応用したがん治療、ミトコンドリア遺伝子編集における RNA/タンパク質の輸送制限機構、複数遺伝子の同時改変を可能にするベクター設計、小型 Cas タンパク質のエンジニアリング、高生産家畜への応用など、多岐にわたる最先端技術を学ぶことができました。特に、MECP2 重複症候群を対象とした RNA 編集技術 HG-204(HERO)の発表は大変印象的でした。これまでは文献でモデル動物のデータを読んだことがあるのみでしたが、今回初めて実際の患者さんの治療映像が公開され、立ち上がることすら困難であった患者が手すりにつかまりながら歩行する様子を通じて、基礎研究が臨床へと進むプロセスをより直接的に理解することができ、今後も疾患に対する遺伝子編集治療の研究を続けていきたいという思いが一層強まりました。また、HG-204 を開発された楊輝先生のご講演を拝聴した後、休憩時間には短いながら直接お話しする機会もあり、RN 編集治療の技術的課題や今後の展望について具体的な示唆を得ることができました。
私の発表に関して、会場では多くの研究者からコメントやご質問をいただき、国際的な場で自分の研究の位置付けを再確認する良い機会となりました。また今回は、同じ研究室の同級生山本翔吾さんとともに Flash Talk に選出され、同一研究室から2名同時に選出されたことを大変光栄に感じるとともに、研究室全体の取り組みが評価されたことを嬉しく思いました。
 学会終了後は三亜から北上し、杭州市に位置する浙江理工大学の尤征英先生の研究室に訪問しました。私自身の研究紹介も行い、在日生活やプラスミド設計の工夫などについて研究室メンバーの方々と活発に交流することができました。また、異なる研究体制の運営方法や、中国の大学研究者の日常的な働き方についても多くの話を伺うことができました。研究室のオフィススペースを見学した際には、日本と同様にオープンオフィスの形であることに親近感を覚え、国を問わず研究現場の環境には共通点が多いことを実感しました。さらに、長時間にわたり研究に取り組む中国の大学院生の姿勢にも触れ、その勤勉さに強い印象を持ちました。
 今回の学会発表と訪問では、久しぶりに母語で研究発表と議論を行うことができ、技術的内容を正確に伝えられる一方で、これまで日本語で議論する際には気づきにくかった表現上の課題にも改めて気付く良い機会となりました。総じて、今回の学会および研究交流を通じて、ゲノム編集分野の急速な発展と応用範囲の広がりを改めて認識し、自身の研究の方向性についても新たな視点を得ることができました。今後は、SATI法 による治療効果のさらなる解析、AAV 投与条件の最適化、他の Rett 関連変異への応用可能性の検討、そしてより効率的な研究体制の構築に取り組むとともに、日本語、中国語、英語の三言語で確実に研究内容を伝えられる能力を引き続き高めていきたいと考えております。 今回得られた知見を今後の研究に生かし、より良い成果を目指して邁進してまいります。

 

Keystone Symposia Precision Genome Engineering 2025

西川想大
(京都大学大学院医学研究科医学専攻)

 この度は、国際発表奨励賞に採択いただき、誠にありがとうございました。今回はアイルランドで開催されたKeystone Symposiaに参加する機会をいただいたため、その内容について報告させていただきます。
 Keystone Symposiaでは、「Precision Genome Engineering: Translating the Human Genome to the Clinic」という副題のもと、ゲノム編集技術の医療応用に関する最新の研究成果の発表やディスカッションが行われました。特に、Base editorおよびPrime editorについては多くの疾患において臨床試験が既に進められていることが示されていました。これらの試験については、マウスや非ヒト霊長類での検証では高い効果が認められていることから、ヒトにおいても有望な治療効果が期待できることが示唆されており、実用化に向けた進展が急速に進んでいることを改めて実感しました。また、臨床試験に関するセッションでは、医療におけるゲノム編集技術の需要とその実現プロセスについて詳細な説明がなされていたため、これから自分自身が医療応用を視野に入れた研究に取り組んでいく際に、その方向性を具体的に考える上で非常に参考になりました。
 続いて学会の全体的な雰囲気についてですが、非常にオープンかつ発表者と聴衆との距離が近い点が特徴的であると感じました。発表後の議論が日本に比べると非常に活発であったこともそうですが、中でも特に印象的だったのは、これまでに参加した学会と異なりポスターセッションが夕食と同じ時間に行われていたことです。そのため、参加者の多くはお酒を片手にリラックスした環境で議論を交わしており、その結果、より自由で活発な意見交換が行われていました。こうした環境での議論は、研究内容を深める上で非常に有益なものになったと考えています。さらに、臨床系の研究者との交流では、自分の研究についてこれまで気づきづらかった医療応用の視点からの質問を受け、研究の方向性について新たな視点を得ることができました。この経験は、自分の研究に対する理解を深め、今後の方向性を考えていく上で貴重な機会となりました。
 最後に、これから国際学会への参加を考えている方へ伝えたいことがあります。国際学会は、世界最先端の研究に触れ、知識や経験を深める貴重な機会であり、ラボに戻った際に「こんな研究をしてみよう」と思いつく点でアイデアの宝庫と言えるものです。また、私自身、英語での発表やディスカッションに不安がありましたが、拙い英語でも多くのコメントをいただき、議論を交わすことができたことは大きな自信につながりました。また、自分の研究成果を評価してもらえたことは非常に励みになり、研究へのモチベーションを高めることにもつながりました。そのため、国際発表奨励賞の制度を積極的に活用し、ぜひ国際学会に挑戦してみてください。得られるものは計り知れず、自身の研究や将来にとって大きな財産になるはずです。

 

Frontiers in Genome Engineering 2024

永友大暉
(京都大学大学院医学研究科医学専攻)

 この度は国際発表奨励賞にご採択いただき、誠にありがとうございました。私はこれまでに国内で開催された国際学会に参加したことはありましたが、海外で国際学会への参加は今回が初めてでした。FGE2024ではポスター発表を実施しました。また、今回の渡航を最大限生かすために、FGE2024の翌週に、11/18-22の計5日間にわたって中国で開催された「Cold Spring Harbor Asia Conference (CSHA)」に参加し、ポスター発表および口頭発表を実施しました。そして非常にありがたいことに、FGE2024のポスター発表については多くの称賛の声をいただき、ポスター賞に選出していただきました。私が研究指導を受けている研究室(京都大学農学研究科・佐久間グループ)からは2年連続の受賞となり、大変光栄に思うと同時に、今後の研究活動のモチベーションにも繋がりました。本制度による支援は FGE2024に対するものですが、続けて参加した CSHAについても併せて報告いたします。
 FGE2024とCSHAはどちらも毎日朝早くから夜遅くまでたくさんのOral SessionやPoster Sessionで埋め尽くされており、内容についてはゲノム編集特化の学会ということもあり、DNA修復経路に関するトピックや、CRISPR-Cas9以外のツールの開発とエンジニアリング、医学応用等、ゲノム編集にまつわる多種多様な発表がなされ、海外の研究スピードとデータ量に圧倒されました。また、Patrick Hsuの発表では、Bridge RNAによるゲノム編集やAIを用いたEvoシステムについて紹介があり、今後のゲノム編集の分野ではインテグラーゼ系を用いた長鎖配列の大規模ノックインや、機械学習・AIによる高機能型の人工ヌクレアーゼまたはエフェクタータンパク質(転写活性化因子や脱アミノ化酵素等)の生成といった研究が飛躍的に進歩する予感がしました。
 正直に申し上げますと、私は海外学会はもちろん海外への渡航自体、今回が初めてで、英語についてはかなり苦手意識をもっていました。英語でのリスニングとスピーキングに自信がない状況下でCSHAの口頭発表に選出された際には、うまく発表をやり遂げることができるか不安でした。しかしながら、英語が苦手ながらも何度も発表練習をして、実際に現地で2回のポスター発表と口頭発表を行った結果、多くの研究者の方々からご質問・ご指摘をいただき、有意義な議論ができました。それに加えて、興味をもっていただいた方々から発表後の夕食等でお声掛けしていただき、「Great Job!」と称賛していただけて、私の研究が海外の方々にも認められたことが非常に嬉しかったのを覚えています。夕食会では、海外の研究者と仲良くなり、海外の文化や研究体制を教えていただき、日本と海外の違いを認識する大変良い機会になりました。初の海外渡航でシンガポールと中国の二ヵ国へ渡航したのは大変ではありましたが、充実した日々を過ごせました。改めて、このような貴重な機会をいただき、誠に感謝申し上げます。
 最後に、今後国際学会への参加を計画しており、国際発表奨励賞への応募を考えている方へのメッセージです。英語での発表はハードルが高いように感じるかとは思いますが、英語での発表は一度経験してみなければ勝手が分からないと思います。その点、国際発表奨励賞はゲノム編集に特化した学会ばかりであるため、発表内容に興味関心をもってくれる方が多いように感じました。英語が苦手で発表に不安を感じている方にとっても馴染みがある研究分野で発表できるため、ハードルは比較的低いように思いました。是非とも国際学会での発表や交流を深めるきっかけとして国際発表奨励賞を利用する方が増えてくれることを願います。

 

CSHL meeting
Genome Engineering: CRISPR Frontiers 2024

三鴨晃矢
(東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻)

 この度は、国際発表奨励賞に採択頂きありがとうございました。
私はこれまでに海外への渡航経験が一切なく、日々の中で自身の英語力の低さを痛感することが何度もありました。また、学会への出席、学内でのシンポジウム等を通じて海外の研究者の存在を間近に感じる中で、海外へ目を向けるべきであると思うことが増えてきていました。そんな中で、今回ありがたいことにCSHL meeting 参加の機会を頂き、①英語での交流を数多く経験すること、②海外の最先端、トレンドを知ること、この2つを大きな目標に掲げて参加してきました。報告を以下に記させて頂きます。
 CSHL meetingは4日間にわたって行われ、7つのオーラルセッションと2つのポスターセッションから構成されていました。オーラルセッションは常に会場が人で満杯になっており、海外の方々の研究に対する意欲の高さを感じました。内容も独創的なものが多く、特に自分がテーマとしているCRISPRに関連するセッションでは、Chase L Beiselが発表していたDarTを介したgap editingや、Rafael Pinilla-RedondoによるTypeⅣ-A3のAdaptationをはじめとした機能に関する発表など、殊更興味深く聞くことができました。中には、自分がこれまで頻繁に読んできた論文の筆頭著者の方や、その共同研究者の方の発表もあり、特にJoana Ferreira da SilvaによるClick Editingに関する発表では、様々なデータを見せて頂くこともできました。各セッションを通して驚いた点が、トレンドの移り変わりの速さです。昨年に関しては准教授の先生から、発表された内容やPrime Editingの発表が多かったことなどを共有して頂いていました。一方で今年の発表はCASTやIntegraseを用いた大規模改変に関する発表が多く、短期間で変化する研究の最先端に衝撃を受けました。また、各発表後の質疑応答も日本に比べると非常に活発で、毎回多くの挙手があり、たくさんの議論が交わされていました。海外の研究者の熱意と積極性に感心するとともに、自分自身の議論に対する姿勢を見直すきっかけにもなりました。
 ポスターセッションは2日間で各3時間ずつ用意されていました。長時間のセッションでしたが、多くの方に聞いていただき、拙い英語ながら多くの感想やコメントを頂くことが出来ました。また議論の中で、「関連しそうなポスターが向こうにあったから行ってみなよ」と親切におすすめしていただくこともありました。セッションの後半には自分も周りのポスターを見て回り、Type I CRISPRでの大規模欠失のスクリーニングをされていた方や、核酸との親和性を基にタンパク質の改変を行っていた方などを中心にたくさんの議論をさせて頂き、知識やアイデアを吸収することが出来ました。本当にあっという間の3時間で、とても有意義で楽しい時間を過ごすことが出来ました。
 セッションの合間の食事の時間にも海外の研究者の方から声をかけて頂き、一緒に食事をとることもありました。会話の中で、将来の描き方や、アメリカやカナダでのラボの形態、研究費のことなど、普段聞けない話を聞くことが出来ました。
貴重な経験をさせて頂き、本当にありがとうございました。
<最後に、今後海外の学会参加を考える方へ>
今回の学会参加を通じてたくさんの海外の研究者、企業の方とお話しさせて頂き、自分の中での海外のイメージがガラリと変わりました。食事や休憩の時間には、様々なバックグラウンドを持つ人たちが垣根なく談笑しており、自分のことも暖かく受け入れてくれました。学会の終わるころには、また海外の国際学会に参加したいと思えるようになりました。来年以降に国際学会参加を検討していて、もしこの制度が継続されていたらぜひ利用してほしいです。

 

Frontiers in Genome Engineering 2023

宇吹俊一郎
(広島大学大学院統合生命科学研究科数理生命科学プログラム)

まず、今回の国際学会発表支援制度に応募した動機から述べます。実は私自身、英語が得意ではない上に、海外に一度も行ったことがなかったので、国際学会への参加に対してとても不安を感じていました。それでも、この先研究を続けていく上で避けては通れないという気持ちと、世界トップランナーの研究がどのようなものか見てみたいという意欲から応募させて頂きました。そして有り難いことに日本ゲノム編集学会より支援金を賜り、インドで開催されたFrontiers in Genome Engineering 2023に参加しました。以下、その内容を報告いたします。
 Invited Speakerらの発表は、これまで見たことがないくらい独創的かつ、CRISPR技術の拡張と応用の広がりを感じさせるものでした。未公開のデータも多分に見せて頂き、多くのインスピレーションを得ることができました。同時に、将来的にこの分野で彼らと競い合わなければならないという意識を強く持ちました。博士課程前期二年の段階でこの意識を持てたのはとても大きなことだと思います。そして、ゲノム編集の分野は新しい段階に進んでおり、幅広い応用が行われていることが実感できました。
 続いてポスターセッションについてです。インド英語はヒングリッシュと呼ばれるほど発音が特徴的で、人によっては全く聞き取れないこともありました。しかし、英会話が目的ではなく、研究内容に関する意見交換が主であると考え、自分の意見を最大限伝える努力をしました。どのポスターも、日本の学会参加では見られなかった独創的な内容でした。特に医療応用に関するものが多く、日本との研究内容の需要の違いを感じました。また、自分の発表では幸いにも多くの方に称賛の言葉を頂き、ポスター賞も受賞することができました。さらに、最終日にはクルージングがあり、多くの参加者と研究環境やその内容、将来などについて楽しくお話ししました。連絡先も交換し、今でも時々連絡を交わしています。
 その後、本支援金では学会参加の他に海外ラボの訪問等も可能でしたので、 FGEのオーガナイザーの一人であるIGIBのDebojyoti Chakraborty先生や、インド観光を通じて現地の方々にお会いしました。Chakraborty先生には、ラボの設備や学生の進路、これからの研究やゲノム編集という分野がどういう方向に向かっていくのか等についてお話させて頂きました。そして、日本ではなく海外で研究することの意義や目的を考えるきっかけとなり、将来自分のなりたい研究者像をより具体的にイメージすることができました。また、現地のインドの方はとても親切で、渡航前と比べてインドの印象がガラリと変わりました。インド文化やインドから見た日本等について色々と教わりましたが、やはり貧富の差は激しく、特にニューデリー駅で物乞いする子供に会った時には衝撃を受けました。世界には解決しなければならない問題が山積みになっていることを肌で実感し、自分の研究を将来的にそのような問題に役立てようと強く思いました。
 最後に、もし英語が苦手で迷っているという方もぜひ海外で開催される国際学会に参加してみてほしいと感じました。参加するだけでも非常に多くのものを得られると思います。また、この分なら完全自費でもお金を貯めてまた国際学会に参加したいと思えるほど、実に有意義な時間を過ごせました。これらの新しい価値観を得られたのも、日本ゲノム編集学会の皆様のお陰でありますので感謝の意をここに綴り、締めさせて頂きます。

 

CSHL meeting "Genome Engineering: CRISPR Frontiers 2023"

山本翔吾
(大阪大学基礎工学研究科物質創成専攻機能物質化学領域)

 初めに、国際学会発表支援制度という大変貴重な機会を与えてくださりましたこと感謝申し上げます。ありがとうございました。
 今回、CSHL meetingに参加するにあたって主に二つの目標を掲げていました。一つ目は海外の研究者と積極的にコミュニケーションを行うことです。このような目標を掲げた理由は、第8回日本ゲノム編集学会でポスター発表をした際、海外の研究者の方からいただいた質問に全く答えることができなかったからです。自分の研究テーマに興味を持っていただき、さらに質問までいただけたのにも関わらず、私の英語表現力が拙かったことから、議論が全く進まず、質問者の疑問も解決できずに終わってしまいました。研究者を目指す私にとってこの経験は大変悔しいものであると同時に英語でのディベート力を鍛える必要があると感じました。そこで、CSHL meetingでのposter sessionに向けて自分の研究内容を可能な限り英語でまとめ、質問を想定することで出来る限りの準備を行いました。その結果、多くの研究者の方から興味を持っていただけるセッションを行うことができ、さらに積極的な意見交換から「この技術を私の実験でもぜひ使ってみたい」と多く言っていただけました。この経験は私にとって非常に刺激的であり、準備してきたことが発揮できたことによる満足感と自分の足りない能力を理解させられました。
 二つ目の目標はゲノム編集技術の最前線を学ぶことでした。CSHL meetingはゲノム編集分野の中でも大きな国際学会であり著名な研究者が多く発表することやposter sessionでも新規性の高い研究テーマがたくさんあり、自分の研究に活かせる技術やアイデアを吸収することが出来ました。また、数多くのハイレベルな発表から現在のゲノム編集というフィールドを今までには経験したことがない解像度で俯瞰的に捉えることができ、これからの研究計画を見直す大変良いきっかけとなりました。
 最後に、学会期間の間に多くの外国人研究者の方々とふれあい言語、文化、バックグラウンドの違いを体感しました。英語が不自由な私に対しても大変温かく接してもらい、「今後はどんなキャリアを考えているんだい」、「君の研究は今後どのように展開していくんだ」など自分自身や自分の取り組む研究に興味を持っていただけて、日々の研究生活が一つ形として認められたような感覚になりました。今後、この国際学会支援制度が継続されるか私にはわかりかねますが、もしチャンスがあればチャレンジしてここでしか得られない貴重な体験をぜひ体感してもらいたいです。

賛助会員

  • (株)島津製作所

    (株)島津製作所
  • ネッパジーン(株)

    ネッパジーン(株)
  • エディットフォース(株)

    エディットフォース(株)
  • ジャクソン・ラボラトリー・ジャパン(株)

    ジャクソン・ラボラトリー・ジャパン(株)
  • Twist Bioscience

    Twist Bioscience
  • 523_C4U

    C4U(株)
  • 715_regional_fish

    リージョナルフィッシュ(株)
  • 744_richmond_pharmacology

    Richmond Pharmacology