日本ゲノム編集学会

メルマガ6号(2018年9月13日配信)

「“ゲノム編集の未来を考える会”の紹介」小泉望先生(大阪府立大学)

「“ゲノム編集の未来を考える会”の紹介」小泉望先生(大阪府立大学)

大阪府立大学 生命環境科学研究科
小泉 望

一度“ゲノム編集の未来を考える会”のホームページをご覧ください。
http://www.biosci.osakafu-u.ac.jp/foge/

CRISPR/Cas9の登場もありゲノム編集技術が飛躍的に進歩し、世の中でも脚光を浴びています。そんな中、ゲノム編集により品種改良された生物の規制が注目されています。つまり遺伝子組換え生物として規制するかどうかです。アルゼンチンでは他の生物の遺伝子が入っていなければゲノム編集作物は規制の対象外、ニュージーランドでは規制対象と言われています。アルゼンチンはプロダクトベース、ニュージーランドはプロセスベースと言えます。米国もプロダクトベースとされる中、2018年7月25日、欧州司法裁判所はゲノム編集作物を遺伝子組換え作物と同様に規制するべきという判断を示しました。つまりEUはプロセスベースです。

それでは日本はどうでしょう?この夏、環境省で検討が行われました。突然変異で起こり得る機能欠失型変異のSDN1、短い核酸の導入、置換による機能獲得型変異のSDN2、長い核酸の導入によるSDN3のうち、閉鎖系においては、SDN1はカルタヘナ法による規制の対象外という方針が2回の検討会を経て8月30日に開かれた専門委員会で示されました。開放系においては、SDN1であっても環境省への届け出が必要とされています。

技術が進歩し、規制が議論される一方で、ゲノム編集技術に不安を抱く人は少なくないようです。ゲノム編集技術の社会実装や規制の在り方に懸念を示す消費者団体もありますし、SDN1を規制対象外とすることについて慎重論を唱える報道は少なくありません。こうした状況で誰がどのように社会実装を進めればよいのでしょうか?理想的には多様なステークホルダーの意見が反映されることが望ましいと言えるでしょう。そこで、この記事のタイトルにある「ゲノム編集の未来を考える会(FoGE:Future of Genome Editing)を立ち上げました。内容について会のホームページ
http://www.biosci.osakafu-u.ac.jp/foge/topics/aboutfoge/
の文章の一部を引用します。
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「ゲノム編集の未来について考える会」は、ゲノム編集に関して多面的に対話を行い、様々な視点から多様な立場の人が議論する場を設けることを目指します。
現状では、生命倫理の観点からの議論が必要な医療目的としたゲノム編集技術は議論の範疇としません。必要性は認識していますが、私たちの中に専門家がいないからです。
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FoGEの活動は、JSTの「科学技術コミュニケーション推進事業未来共創イノベーション活動支援」(共に考えるゲノム編集の未来)の支援を受けています。つまりFoGEは現状ではJSTの活動支援の受け皿です。実は今のところ会員は私だけです。協力してくれる人はいますが、規約等を決めるとフットワークが悪くなるので敢えてこのような形をとっています。

FoGEでは、研究者からステークホルダーへの話題提供(Give)、受け取り手からの意見の聴取(Take)、意見集約のための議論(Argument)、ステークホルダー間での合意形成(Consensus)を目指していて、この一連の流れをGTACサイクルと呼んでいます。具体的に行っている活動は、1)サイエンスカフェや市民講座などのイベントの実施、2)ホームページの運用(イベントの報告、イベントの紹介(FoGE主催に限りません)、新聞記事等の紹介)、3)(ごく簡単な不定期の)メルマガの配信、4)冊子やパワーポイントなどのコンテンツ作成、5)ネットワークの拡大、などです。

1)ではゲノム編集学会の会員にも話題提供者として協力頂いています。聴衆から予想もしなかった鋭い質問も出て、研究者にとって勉強になることも少なくありません。
2)は更新しているのは主として新聞記事へのリンクです。全ての記事には対応していませんが、いくつか読めば規制に関するメディアの姿勢が何となくお分かり頂けるかと思います。9月29日(土)に東京で開催される2つのイベントなども掲載しています。
http://www.biosci.osakafu-u.ac.jp/foge/category/イベント案内/
1つ目には山本会長も登壇されます。
3)のメルマガでは例えば前述のイベントの案内などを行っています。4)はこれから作る予定ですが、専門の研究者でない人に分かり易いものが出来ればと考えています。5)は重要なミッションです。こうした活動を一緒に行って頂ける機関、個人を募集中です。メルマガ配信の要望でも結構です。何かありましたら、

nkoizumi@plant.osakafu-u.ac.jp
あるいは
acfoge@gmail.com
まで、ご一報ください。

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≪イベント開催案内≫

1. ゲノム編集に規制は必要か

9/29シンポジウム「ゲノム編集に規制は必要か」開催案内

【テーマ】ゲノム編集食用作物技術と規制づくりについて
【日時】2018年9月29日(土)13:30~16:30  13:00受付開始
【会場】明治大学リバティタワー1123教室  アクセス
【資料代】一般1,000円 たねと食とひと@フォーラム個人会員800円 学生500円
【主催】たねと食とひと@フォーラム
【申込・問合せ先】たねと食とひと@フォーラム事務局
名前、連絡先、参加人数を記載の上 FAX:03-6869-7204
または Email:info@nongmseed.jp にてお申込みください。

概要
政府が今年6月にまとめた「統合イノベーション戦略」に基づき、「ゲノム編集」で作られた生物の法的規制についての検討が行われました。昨年、規制の必要を訴える意見書を出した当会にとっては歓迎すべき動きですが、中長期的な生態系の維持を犠牲にした「イノベーション」の推進には注意が必要です。自然環境への影響、食の安全、食品表示のあり方を一つずつ考えていく必要があります。この7月に環境省の専門委員会では、自然環境への影響を規制するカルタヘナ法が定義する「遺伝子組み換え作物」にゲノム編集の産物を加えるか否かについて、実質的な議論が行われず計2回の会合で終了してしまいました。
しかしこの専門委員会には問題があると考えます。はじめから、外部からの核酸導入のないゲノム編集を規制対象外とするという方向性が鮮明になっていました。しかもここに参加しているのはバイオテクノロジー研究者ばかりで、その影響を受ける生産者や消費者の代表はまったく加わっていません。これは広く市民全体の意見を反映した方針を打ち出したものではありません。
たねと食とひと@フォーラムは、バイオテクノロジーの農業応用の完全禁止を求めているわけではありません。ただ。広い層の市民を巻き込んだ社会的議論をふまえて、適切な規制のあり方を考えていくことを訴えています。今回のシンポジウムでは、ゲノム編集の農業応用をめぐる異なる立場の代表をお招きし、それぞれの見解を聞きつつ、環境への影響、食品としての安全性、表示の有効性を議論いたします。妥当な規制のあり方をめぐる合理的な論点を、それぞれのテーマで明確化することをめざします。市民一人一人が当事者であるこの問題に関して、多くの方の参加により取り組んでいきたいと考えています。

2. CRISPRCon-inspired conference Japan for future food production
みらいの食を支える育種フォーラム
http://crisprcon-inspired.tokyo/

【日時】2018年 9月29日(土)10:00~17:00
【会場】一橋大学一橋講堂 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
【参加費】2,000円
【申込み】必要(先着順500名程度)※学生無料(学生証必携)
    http://crisprcon-inspired.tokyo/
【主催】筑波大学つくば機能植物イノベーション研究センター 

概要
ゲノム編集技術は多くの関心を集めており、メディア等でも取り上げられるようになってきました。一方、これまで、学術的観点からの有用性やその活用に関する議論は多くなされてきたものの、研究者、開発者、生産者、流通関係者、消費者、メディアなどが一堂に会して本技術について議論する機会はありませんでした。「みらいの食を支える育種フォーラム」は、ゲノム編集技術が農業分野に応用されることにより、私達の食の未来がどのような影響を受けるのかについて関心を持っている全ての人を参加対象とし、多様な意見や疑問を出し合い議論することを目的として開催します。パネルディスカッション、対話型の議論などを通じ、参加者のアイデアを共有できるような新しい形の議論の場を形成することを目指しています。

 

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